2017/03/25

下関市南部の長府花崗岩と風化・浸食の歴史(山口県西部はジュラ紀から地殻の隆起が緩やかだった?)


下の風景写真の右側に四王司山,左側に青山(手前),勝山が見えます。このあたりは,大部分が花崗岩ですが,青山と勝山の山頂付近に関門層群に属する下関亜層群の岩石が屋根状にのっています。今回は,四王司山山塊に分布する花崗岩について色々なエピソードを交えながら解説してみたいと思います。


写真右側から四王司山(手前の山ではない),勝山,青山(手前の大きめの山),
採石場のある山



長府付近でよく見られる花崗岩の露頭


四王司山の山腹の花崗岩の露頭



上の写真ですが,これは下関市の四王司山の山腹にある花崗岩の露頭で,今から約9400万年前の後期白亜紀に貫入した長府花崗岩に属する中粒黒雲母花崗岩になります。四王司山周辺では,花崗岩の深層風化が進み,真砂土になるような強度の低い岩盤が広く分布しています。

このような脆弱な岩盤は節理(割れ目)に沿って地下水が浸透し,かなりの時間をかけて硬い岩石が玉ねぎ状に風化をしてできるのですが,上の写真では一見石積みのように見えます。礫状部はかなり硬いです。こういったものが,大雨で地盤が水分で飽和状態になり,崩れて土石流を引き起こします。この露頭の地点の下部斜面など,とくに川沿いの側面には至る所で土石流堆積物がたまっているのが観察できると思います。

最近の広島県の豪雨災害などは,四王司山と同じ花崗岩地帯で起きていますが,長府のあたりではあまり土石流の被害の情報はないですね。なぜかというと,四王司山の山塊に分布する花崗岩は,防府や広島のものよりも深層風化が進んでいて,深くまで雨水が浸透しやすいからだと考えられます。地盤の隆起が緩やかなため風化した岩石が残りやすかった地域だということでしょう。大地の隆起のしかたが速いほど川は急になり地表は洗われやすくなるため,風化物が残りにくく,岩はごつごつとあらわになり,谷や地層はどんどん深く削られていくということです。


この下関市の南部の辺りはどういうわけか,少なくともジュラ紀頃から隆起が他の地域よりも比較的緩やかで,ジュラ紀の豊浦層群,前期白亜紀の豊西層群など本邦では数少ない古い地層が広く浸食から取り残されて残っていて誇るべき地域といえるでしょう。

山口県西部を除く中国地方や北部九州では,今から約1億6000万年前の後期ジュラ紀に起こった超大陸パンゲアの分裂に関わるマントル内のスーパープルームの活動に起因する大変動により地殻が著しく隆起したため,ジュラ系は消滅したかあるいは現在狭小に残っている程度です。この地球でスーパープルームの上昇流が生じると何が起こるかというと,火成活動が活発になり大陸をも分断し移動させますが,拡大するプレートの反対側では何が起こるか想像できますね。プレートの沈み込み速度がかなり早くなります。

大陸と日本列島を隔てる日本海も,新生代中新世の約1000万年くらいの期間にローカルなマントル上昇流(マントルプルーム?)が原因となってできたことはご存知の方もいらっしゃると思いますが,山陰の石見層群の海底熱水鉱床を伴うグリーンタフや瀬戸内海沿岸・島々の瀬戸内火山岩には,安山岩~流紋岩などその時に噴出した火山岩類が多いです。日本海が拡大して日本弧側で何が起こったかというと弧地殻がフィリピン海プレートにのしあげた形になったのです。その時の産物が瀬戸内火山岩です。

後期ジュラ紀には下関市において豊浦層群阿内層が堆積していた頃ですが,この地層にも東アジアの南中国地塊のカタイシアで起こった約1億6000万~1億5000万年前約1000万年間のマントル上昇流に起因する大変動(内陸での大量の花崗岩の形成や大陸縁辺の付加体群におけるパイルナップ構造の形成)の前半期の痕跡が,火山灰の降り積もってできた酸性凝灰岩や大地震などで生じた重力流起源の堆積岩として残っています。


このうように大地の著しい隆起を太古から免れてきた土地であるため色々な地層が広く残っているのですが,だからといって,これからは温暖化で想定外の自然災害が多発することが考えられますから気をつけるに越したことはありません。

温暖化がこのまま進むと,氷床が溶けて遠心力で赤道付近に海水が集中するため地球の自転速度が遅くなり,地球のコアに影響が及んで地球磁場が変化するといわれていますので大変なことが起きてきます。ダイナモ理論を知っていればわかりやすいです。すでに磁場に変動が認められていて,逆転するのではないかと以前から危惧されています。ポールシフト(地軸の移動)による急激な気候変動でマンモスが絶滅したという説も聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが,これは違った要因によって引き起こされるものですので興味のある方は検索されてみて下さい。生き物にとって地球環境が安定していることがどれだけ大切で必要不可欠なことかわかります。地球はいま10万年周期の温暖化のピークを過ぎたところですので,自然な状態であれば寒冷化に向かっているところです。氷期に入ると今よりも100m近く海水面が下がるため,陸地が増加し人類の移動が生じるでしょう。温暖化も寒冷化(縄文時代の初めの約1万6000年~1万2000年前に経験した氷河期に突入)も人類にとっては悩ましい問題ですが,人類存続のためにとにかく今ある自然を大切に壊さないようにしていきましょう。



長府の花崗岩の属する地質体名は何なのか

四王司山~勝山地域に分布する花崗岩は,広島県を中心に広く分布する広島中期花崗岩類に属し,いくつもの岩体に分かれたものの1つで,以前,この岩体は,小月岩体とされていましたが,1998年に産総研(旧地質調査所)の記載で,長府一帯から美祢市にかけて分布する岩体が,長府花崗岩と改名されました。



広島花崗岩類という地質体名も近年廃止?

日本地方地質誌6 中国地方(2009年)と山口県地質図 第3版(2012年)では,広島花崗岩が,関門期貫入岩,周南期貫入岩と広島期貫入岩に分けられています。

これに従えば,長府花崗岩は,94Ma(9400万年前の後期白亜紀)ですので,周南期貫入岩に年代的に区分されます。しかし,中国地方の山陽帯全域でみると,放射年代が明らかにされていない未区分または未報告の岩体も,他県にはまだ残っていると思いますので,まだ,広島花崗岩類という名称の廃止はまだ早いのではないかと思います。

慣れ親しんだ名称が廃止されるのも寂しいものです。