ジュラ紀の豊浦層群は,下位から東長野層,西中山層,歌野層,阿内層に区分されますが,どの層にも含まれる共通の化石があります。それは,ジュラ紀の海の底の堆積物に棲息していた生物の棲みかだけが地層の中に化石として残ったもので,一般に生痕化石と呼ばれるものの1つです。豊浦層群の上位に不整合に重なる豊西層群清末層および吉母層から同じものは見つかっていません。
今回は,この生痕化石について色々と余談を交えて,つづってみたいと思います。
Phycosiphonは,生物の属とは別扱いで Ichnogenus(生痕属)として扱われ,フィコサイフォンと読みます。
豊浦層群の中でも,歌野層のPhycosiphonが,分布が広く母岩が明るい色をしていて,生痕の部分が黒いので比較的見つけやすいです。
阿内層にも歌野層と同じPhycosiphonが産出します。
場所によってはかなり厚く分布し生痕をはっきりと見ることができますが,露頭が少ないです。
豊浦層群から産出する生痕属 Phycosiphon
Phycosiphonは,生物の属とは別扱いで Ichnogenus(生痕属)として扱われ,フィコサイフォンと読みます。
豊浦層群の中でも,歌野層のPhycosiphonが,分布が広く母岩が明るい色をしていて,生痕の部分が黒いので比較的見つけやすいです。
阿内層にも歌野層と同じPhycosiphonが産出します。
場所によってはかなり厚く分布し生痕をはっきりと見ることができますが,露頭が少ないです。
東長野層や西中山層の泥岩においても,場所によっては顕著に見られますが,堆積岩の色調が黒色で目立たない場合が多いですので簡単には見つけられません。表面が風化している転石を探すとわかりやすいでしょう。
下の写真は,歌野層の縞状泥岩で,長門構造帯に沿って細長く伸びた内海の海域に形成された三角州の外縁付近において,泥や砂の中の有機物を食べて生活をしていた生物の生痕 Phycosiphon cf. incertum がたくさん含まれています。
下の写真ですが,生痕の部分だけが黒っぽいのは,有機物が含まれるためです。
管状の生痕は,U字形が特徴的ですが,泥岩の切断面の角度によって,形が違ってきます。
このように生痕化石が密集して,堆積物の構造,この場合は平行葉理が乱されてぐちゃぐちゃにかき混ぜられたように見える状態を,生物擾乱(せうぶつじょうらん)といいます。この岩石は,泥岩ですので生物擾乱泥岩と呼ぶこともあります。
豊浦層群の生痕の存在は知られていましたが,Phycosiphonに名前が特定されたのは河村(2010)が最初になります。インターネットがあまり普及してなく足を使って調べる時代のこと,中深海から産出する生痕に豊浦層群と似たものがあることは,図書館に置いてあった本を見て早くからわかっていましたが,AnconichnusやHelminthopsisといった属名で記載されている文献がかなりあったため,「豊浦層群のものをPhycosiphonと同定するのが妥当であって,中深海と同じ属に属するものだ」と認識するまでにかなりの年月を要しました。
下の写真は,歌野層の縞状泥岩で,長門構造帯に沿って細長く伸びた内海の海域に形成された三角州の外縁付近において,泥や砂の中の有機物を食べて生活をしていた生物の生痕 Phycosiphon cf. incertum がたくさん含まれています。
砂質の葉理がかすかに見られる生物擾乱泥岩(下関市阿内) |
下の写真ですが,生痕の部分だけが黒っぽいのは,有機物が含まれるためです。
管状の生痕は,U字形が特徴的ですが,泥岩の切断面の角度によって,形が違ってきます。
Phycosiphon のみからなる生物擾乱泥岩(下関市阿内) |
このように生痕化石が密集して,堆積物の構造,この場合は平行葉理が乱されてぐちゃぐちゃにかき混ぜられたように見える状態を,生物擾乱(せうぶつじょうらん)といいます。この岩石は,泥岩ですので生物擾乱泥岩と呼ぶこともあります。
山口県や近隣で発見されたPhycosiphon
生痕属 Phycosiphonは,山口県下では,豊浦層群と同じ時代のジュラ紀の玖珂層群から最初に発見されました。玖珂層群は,豊浦層群の沖合の海溝側にプレートの沈み込みに伴って陸側に付加された堆積物で,付加体の美濃-丹波帯を構成しています。豊浦層群の生痕の存在は知られていましたが,Phycosiphonに名前が特定されたのは河村(2010)が最初になります。インターネットがあまり普及してなく足を使って調べる時代のこと,中深海から産出する生痕に豊浦層群と似たものがあることは,図書館に置いてあった本を見て早くからわかっていましたが,AnconichnusやHelminthopsisといった属名で記載されている文献がかなりあったため,「豊浦層群のものをPhycosiphonと同定するのが妥当であって,中深海と同じ属に属するものだ」と認識するまでにかなりの年月を要しました。
その5年後の2015年,同じ雑誌で山口県の東隣りの島根県西部に分布する下部ジュラ系の樋口層群からPhycosiphonが報告されています。この樋口層群(ひぐちそうぐん)も海の堆積物で,西中山層と時代を同じくし類似のアンモナイトを含んでいます。
今はネットで検索すると,ある程度の文献は閲覧できる時代ですので,いままでの苦労は何だったのかと落胆することがかなり多くなってきています。しかし,便利になって情報が爆発的に多くなってきた分,それらの処理能力(情報リテラシー)が要求される時代になってきました。並みの人間の半端な努力では報われない時代ともいえます。脳を使いすぎて先のことを見通す力が弱っている方も多いでしょう。そのうち,AI がすべてやってくれる時代がきて,今の社会構造が崩壊するといわれます。目先のことばかりを追究して,後の世代での解決に依存せずに10年,100年先をよく見据えて研究・開発などをしてほしいものです。今の世の中も豊かさと裏腹に人間らしさを失ってどんどん破滅の方向に向かっている気もします。古き良き時代が懐かしいですね。
Phycosiphonに似たお菓子
今年たまたま頂いたお盆のお土産です。
ホワイトチョコサンド |
あたかも,ジュラ紀の豊浦層群の堆積岩に普通にみられる生痕化石である Phycosiphon(フィコサイフォン)を模したようなお菓子です。東京ばな奈ツリー シャリ―メイト「見ぃつけたっ」というホワイトチョコサンドです。まさに,「見つけた」という感じでした。