日本に生育していたイチョウは,更新世の氷期の間に絶滅してしまったといわれており,現在,国内にみられるイチョウは,中国から渡来したものだとされています。
今回は,豊浦層群の阿内層から産出する後期ジュラ紀のイチョウ化石について解説してみたいと思います。
春になって芽吹いてきたイチョウ葉(4/15撮影) |
阿内植物群(Ohchi flora)
豊浦層群阿内層から産出する化石植物群は,飛騨地域の後期ジュラ紀~白亜紀前期の地層から産出する北方系要素と西南日本外帯に分布する後期ジュラ紀(一部,中期ジュラ紀)~白亜紀前期の地層から産出する南方系要素(領石型植物群)との両方が混じり合った混合型植物群です。
以前は,阿内層分布域は,歌野層の後,豊西層群清末層に区分されていたことがあって,歌野植物群や清末植物群などといわれていましたが,阿内層から産出する化石植物群は,上位の清末層のものと共通する種類を含むものの,清末層の化石植物群は明らかに北方系の要素が多くなっています。
現在,阿内層から産出する化石植物群は,阿内植物群と命名されています。
Ginkgoites属は,北方系要素の1つです。ここでは,従来の手取型植物群とほぼ同義に使用できるものとして,石徹白層群から産出する化石植物群である石徹白型植物群を代用したいと思います。石徹白型植物群は,シベリア型植物群と併せて,動物化石におけるボレアル型にほぼ相当する地理区に分布するものと考えられます。
以前は,阿内層分布域は,歌野層の後,豊西層群清末層に区分されていたことがあって,歌野植物群や清末植物群などといわれていましたが,阿内層から産出する化石植物群は,上位の清末層のものと共通する種類を含むものの,清末層の化石植物群は明らかに北方系の要素が多くなっています。
現在,阿内層から産出する化石植物群は,阿内植物群と命名されています。
Ginkgoites属は,北方系要素の1つです。ここでは,従来の手取型植物群とほぼ同義に使用できるものとして,石徹白層群から産出する化石植物群である石徹白型植物群を代用したいと思います。石徹白型植物群は,シベリア型植物群と併せて,動物化石におけるボレアル型にほぼ相当する地理区に分布するものと考えられます。
Ginkgoites is the Itoshiro type (the flora of Itoshiro Group of the Tetori Supergroup) element in the Ohchi flora of the Ohchi Formation. The Itoshiro type flora, which flourished in a temperate and humid region, is roughly equivalent to the boreal type in animal fossils.
阿内層から産出したGinkgoites ex gr. digitatus |
Stratigraphic position: the upper part of Jurassic Ohchi Formation, Toyora Group.
Stratigraphic level: the facies number Oc5* (Late Oxfordian: in Kawamura, 2017)
* Facies numbers are described in fig. 6 by Kawamura (2010)
Ginkgoites ex gr. digitatus (Brongniart) Seward
阿内層産の化石イチョウの葉は,柄を有していて,葉身は扇形で葉身幅:42~57mm,葉身長:35~47mm、葉柄長:27mm以上。一般に,葉身の中央で葉身長の3分の1程度まで裂開し,大きく2つの裂片に分かれます。2つの幅の広い裂片はさらに3つの小裂片に不規則に浅裂します。葉脈は,葉身の基部から葉縁に向かって放射状に広がっています。葉身底部を走る葉脈は,3~6回ほど支脈を二又に派生し,その支脈は,さらに0~3回叉状分岐します。また,葉身のそのほかの部分で1~4回叉状分岐します。葉脈の密度は裂欠のない葉身中央部で1cmにつき約18本です。
阿内層産の葉の基本的な特徴は,Yokoyama (1889)によって岐阜県の手取累層群石徹白層群から記載されたGinkgoites digitatusに最も近いです。
また,Harris (1948)によってイギリス、ヨークシャーの中部ジュラ系グリストープ bedから記載されたGinkgo digitata に、葉身の裂け目がやや浅いことと、小裂片の形状において類似しています。
しかし、Yokoyama (1889)の標本を除く手取層群産のGinkgoites digitatusにおいては、葉身が深く裂けるものが多いです。
本種は、葉身中央の裂け目だけでなく、小裂片も深裂したものが多いですが,採取した標本の中に葉身の3分の2程度まで深裂したものがみられません。
The Ohchi flora (formerly the Utano flora and the Nishinakayama flora of Kimura and Ohana, 1987) occurs in the facies number Oa3-Oc8 (late Middle Callovian-Early Kimmeridgian). This flora rarely contains three type of Ginkgoites (possibly Ginkgo) leaves, such as G. digitatus, G. sibiricus and G. sp.. This G. digitatus specimen is derived from the uppermost horizon among those species.
現生イチョウの葉(Living Ginkgo leaves)
Variety of living Ginkgo biloba leaves and seeds. |
黄金色の葉がクッションのように堆積したイチョウ並木の下を探しましたが,阿内層のGinkgoitesと似た形のイチョウの葉は,なかなか見つかりませんでした。
表皮細胞組織(Cuticular tissue)
上の写真の葉を採取したイチョウの葉などから,下の写真の表皮細胞を分離してみました。Cuticular tissue separated from a living Ginkgo leaf and a fossil leaf by me. This Ginkgo biloba cuticle was dyed by safranin.
Cuticular tissue of a living Ginkgo biloba L. |
ジュラ紀のイチョウの表皮細胞組織を分離した方法で,阿内層産のGinkgoitesから表皮を分離することを試みましたが,産地周辺の地層は熱変成を受けているため,植物の組織が変質し,細胞組織を観察することができませんでした。