2021/01/03

正月飾りに用いられるウラジロ科のシダ:ウラジロとは?(Urajiro ferns used for a Japanese New Year decoration in Yamaguchi)


ウラジロは,正月飾りに使用される縁起のよいウラジロ科のシダです。今回は,ウラジロについて写真を用いて学名や分子系統解析,化石などの話題をまじえて解説してみたいと思います。

写真_植物
正月飾りのウラジロ(1/2)



ウラジロ(裏白)


ウラジロDiplopterygium glaucum (Thunb. ex Houtt.) Nakai)は,ウラジロ科のシダ類で,英名はUrajiro fern。属名のDiplopterygiumは,ギリシャ語で複合語をなすDiplo-」(2つの)と,属格のpterygi」(翼のある)を合わせて2つの翼のある」という意味で,中性の語尾「-um」がつきます。種名のglaucum は中性の形容詞で「葉が白い粉で覆われた状態」を意味する語で,実際,ウラジロ(裏白)の名のとおり葉の裏が白くなっています。ウラジロは,Gleichenia japonicaという学名が未だ使用されていることがありますが,ウラジロは形態的にGleicheniaのタイプとは異なり,これは分子系統解析の結果からも支持されます。Diplopterygiumは,HolttumによりGleicheniaの3亜属の1つとして分類されていましたが,ウラジロはDicranopteris(コシダ属)遺伝子的に近く,Gleicheniaとは比較的遠縁なのです。したがって世界的にはDiplopterygium glaucumが使用されています。Diplopterygiumウラジロ属とし,Gleicheniaをグレイケニア属と表記します。Gleicheniaceaeの和名のウラジロ科はそのまま使用されます。


写真_植物
群生するウラジロ(4/2)


次の写真は,2枚の羽片からなる1年目の葉です。これから,2回羽状複葉を形成するように2~3年かけて成長していきます。熱帯などの暖かい地域では無限成長し10mにも成長するようです。

写真_植物
分岐したウラジロの葉(4/2)



次の写真はウラジロの休眠芽ですが,葉の分岐点には休眠芽のほかに,極小な羽片が生じているのがわかると思います。
コシダの葉の分岐部に見られる飾り羽片のように大きくはないですが,両種の共通する点ではないかと思います。

写真_植物
ウラジロの葉の分岐点から生じた休眠芽(4/2)


次の写真はウラジロの群落ですが,ウラジロの葉は無限成長をするため,葉が3重にも成長すると古い葉が積み重なって厚さ2mほどのクッションのようになります。これに
山中の斜面で遭遇すると藪漕ぎよりも進みにくい状態でクッションの上に這い上がりながら進むことになります。

写真_植物
ウラジロの群落,下関市勝山の山中で撮影(3/31)



次の写真はウラジロの葉の裏側で,白い粉で覆われていますが,冬を越した古い葉ですので白い部分がかなり失われています。小羽片の裂片の中の葉脈から生じた胎座の周囲に1~4個の胞子嚢からなる胞子嚢群が付いているのが見られます。

写真_植物
ウラジロの胞子嚢群(4/2)



次の写真は,ウラジロの胞子嚢で,中にある胞子を弾き飛ばすためのジャバラのような環帯が取り巻いています。乾燥すると写真のように裂開します。
写真_植物
ウラジロの胞子嚢


次の写真は,ウラジロの胞子嚢から分離した胞子で600倍で撮影しています。写真を左に90°回転したほうがわかりやすいですが,左が胞子のY字形の条溝のみられる極観像で,右が赤道観像です。つまり胞子を上からみると正三角形に近く,横から見るとあたかもミカンのように丸く見えます。

写真_植物
トライレート型のウラジロの胞子



ウラジロ属が地球上に出現したのはいつ頃から?

ウラジロ属(Diplopterygium)の化石は,属名がかつて亜属の扱いでしたのでGleicheniaとしての報告に含まれており報告が見つかりませんが,Gleicheniaの化石は,ポーランドの前期ジュラ紀Toarcian期の地層から最古のGleichenia rostafinskiiが報告されています。Toarcian期は山口県でいえば豊浦層群西中山層の時代です。ウラジロ科の化石であるGleichenites属は,グレイケニアのように見えるという意味の学名ですが,化石によく使用される語尾が付き,和名はカセキウラジロです。このGleichenites属で最古級のものは,中国,遼寧省の中期トリアス紀Anisian期の林家層から報告されているGleichenites sp.です。中期トリアス紀Carnian期から世界的にGleichenites属の化石が増えてきます。Carnian期は山口県でいえば美祢層群の時代ですが本属の産出はありません。山口県で最古のGleichenites属の化石は,ジュラ紀の豊浦層群阿内層の3層準から産出しています。かつて歌野層から報告されたPolipodites sp. A(→ 化石胞子によりGleichenites sp. と判明)や西中山層から報告されたGleichenites? sp.阿内層の層準に変更になっています。

ウラジロ科の最古の化石としては,後期石炭紀ペンシルバニアン亜紀の地層からOligocarpia属がいくつか報告されていますが,より確かなものはペルム紀だとする見方もあります。

























































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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