クサギに寄生したコウモリガの巣 |
コウモリガ(蝙蝠蛾)
学名は,Endoclita excrescens (Butler, 1877),英名ではコウモリガ科の蛾はしばしばGhost moth(幽霊蛾)と呼ばれています。コウモリガの名の由来は,次の写真のように通常,天井からぶら下がるような姿勢でとまっていることにあると考えられます。種名の「excrescens」はラテン語で「成長して異常に大きくなること」を意味しています。コウモリのようにぶら下がるコウモリガの成虫(10月上旬) |
腹部が異様に大きく,一度に大量の卵を産むことができます。飛びながら産卵するといわれますが,休んでいる時も卵が出てくることがあり,一晩で500個くらいの卵を産んでいます。一生のうちに1万個ほどの卵を産む個体もいるようです。化け物といわれるのはこのためもあるかもしれません。
次の写真では,ぶら下がっている姿勢で後脚が第2関節より垂れ下がった状態になっていて,幽霊を想像させます。
幽霊のように後脚をたらすコウモリガの成虫(10月上旬) |
7月にはヨモギやセイタカアワダチソウなどの草本類から食草を変えて,主に樹木に寄生するためにコウモリガの幼虫が徘徊し始めます。
寄生する樹種には,クサギのほかにキリ,クリ,コナラなどで確認しています。次の写真の幼虫の体長は約78㎜ほどで,かなり成長した個体です。ヨモギなど草本は茎の上方に向かい食入しますが,個体が大きくなると幹の下方に向かって食入しています。面白いことに,食入する際に幹の周囲の形成層を一周食い尽くした後に幹の中心の髄に向かって入っていく個体もいます。
クサギの髄を食べてトンネルをつくったコウモリガの幼虫(8月下旬) |
取り出したコウモリガの幼虫(8月下旬) |
次の写真は,食入孔付近で蛹化したコウモリガです。
次の写真は,食入孔をふさぐために糞を糸で綴ってつくられたコウモリガの糞塊ですが,食入孔付近で蛹化し抜け出る際にサナギの殻が引きずられて外側に突き出してくると考えられます。
コウモリガの糞塊から突き出た羽化後の抜け殻(8月上旬) |
卵は円形ないし楕円形で,サイズは径0.6~0.68㎜ほどになります。次の写真の産卵後時間がたった卵の色は黒いですが,産卵したてでは淡黄白(クリーム)色をしています。
コウモリガに寄生された樹木は次の写真のような被害を被ることもあります。
しばしば宿主とされるクサギやキリなどは繁殖力が旺盛で枯れたとしても地下茎を伸ばして繁殖することができますが,そうでない樹種に食入する例も数多くあります。食入時に形成層を一周食い尽くしてしまうのは,後続の個体が幹の上方に入らないようにブロックするという目的もあるのかもしれません。昆虫とはいえ頭が良いです。
コウモリガ科のゴーストモスはいつ頃からいた?
コウモリガ科の最古の化石は,新生代の初めの今から約5900-5600万年前のフランス,オーベルニュ地方にあるピュイ・ド・ドーム県メナットの後期暁新世(Thanetian期)の地層からProhepialus incertusが報告されています。この時代の地層は山口県には分布せず,国内では北海道に分布しているのみです。
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