「ハナシバ」と呼ばれお盆など仏事に用いられる常緑広葉樹;シキミ(樒)とは
シキミは,3月に入ると黄白色の花を咲かせ良い香りを放ちますが,お盆の実が生る頃にヒサカキの代用としてこのシバを刈り取って活けた状態で仏前に供えることもあります。今回は仏事に用いられるシキミについて解説します。
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基部側から観察したシキミの実(8月上旬) |
シキミ(樒)
シキミは,マツブサ科シキミ属の常緑高木で,学名はIllicium anisatum。英名は,Japanese star anise。属名のIlliciumは,ラテン語で「Illicit」(禁じられた)と「-icium」(作用の結果を示す語)という意味で,魅惑的な香りに由来するとする説があります。 シキミ属のタイプ種(最初に記載された種)は本種のシキミで,果実にはアニサチンなどの中毒症状を起こす神経毒を含みます。花は良い香りがありますが春に限られ,香り(抹香や線香)を目的として仏事に利用されるのは,葉や樹皮に含まれる芳香成分です。種名のanisatumは「anise」(アニス)と「-atum」(~に類似した,~の形をした)で「アニスに似た」という意味になります。
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花の咲いたシキミの木(3月下旬) |
シキミは,同じくお墓に供えるヒサカキや神棚に生けるサカキよりもかなり大きめの花を咲かせ,良い香りを放ちますので,これが俗名でハナシバ(花柴)と呼ばれる理由だと考えられます。次の写真はシキミの葉ですが,枝先に集まってつきます。この葉や樹皮から,法事などご焼香のときに使われる粉末状の抹香がつくられるということです。
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シキミの葉(8月上旬) |
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シキミの花(3月上旬) |
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横から観察したシキミの花(3月上旬) |
シキミの果実は,トウシキミの八角(香辛料や漢方薬,タミフルの原料に利用される)に似ていますが,食用にしてはいけない劇物に指定されています。八角は,薬草として古代ギリシャの時代から知られていたセリ科の草本類のアニスと同じ成分のアネトールを含有し,味や香りが似ているためアニスの代用品のスターアニスとして利用されてきました。シキミの種名のアニサトゥムは,次の写真のように6~8個の袋果が星状に並んでいて,秋になって熟すとトウシキミの乾燥果実である八角(スターアニス)に形が酷似していることから由来すると考えられます。
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シキミの実(8月上旬) |
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シキミの樹皮(8月中旬) |
シキミ属はいつ頃から地球上に生えていた?
マツブサ科(かつてのシキミ科)は,スイレンの仲間などとともに原始的な被子植物であり,被子植物が顕在化する中生代の前期白亜紀にはすでに出現していたと考えられています。シキミ属(Illicium)の化石は,今から約8300万~7200万年前の後期白亜紀のCampanian期のアメリカ,サウスカロライナ州に分布するBlack Creek層のMiddendolf部層の海成泥岩から産出したIllicium watereensisが最古級のものになります。 山口県にはこの時代の地層は分布していません。日本では,新生代の中期中新世の渥美層群からシキミの果実の化石が産出していますので,シキミが日本に移入してきたのではなく太古の昔から存在していたことが分かっています。
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