前期白亜紀の吉母層の時代に吉母地域の汽水域に棲息していた二枚貝類Pulsidis nagatoensisについて解説します。山口県西部には白亜系の最下部を構成する地層として,豊西層群があります。本層群は吉母-阿内地域では下位から清末層,吉母層の順に累重します。
豊西層群吉母層から産出した汽水生二枚貝Pulsidis nagatoensisの密集化石(2000/10/01採取) |
汽水生二枚貝Pulsidis nagatoensis
この化石の学名は,Pulsidis nagatoensis Otaで,プルシジス・ナガトエンシス,英語音ではパルサイディス・ナガトエンシスと読みます。
産地は下関市吉母浦で,豊西層群吉母層主部 (Valanginian)からの産出です。
吉母浦ではカキ礁を形成するマガキ属2種からなる化石層が最も目立つ存在でよく知られていますが,他にも黒色泥岩中に色々な汽水生の二枚貝や巻貝類などの化石が見られます。
Pulsidis属は,黒色泥岩にシーム状に寄せ集まって産出します。標本写真を見ると,貝殻は厚く密集しているように見えますが,次の写真のようにほとんど厚みがなく1つの面だけに密集しています。
Pulsidis化石標本の断面(化石はほとんど標本の表面のみ) |
分類は,クチベニガイ科(古くは,シコロクチベニガイ科)に属し,この化石は現生種のクチベニガイによく似ています。クチベニガイ科の二枚貝は,吉母層からもう1種知られていて,吉母地域の東方の内日-阿内地域のほうから出ます。
Pulsidis nagatoensisの密集標本 |
上の標本写真を見たらわかりますが,実は今回の標本には別の二枚貝化石が1つ入っています。いわれてみると気が付くといった保存状態です。
学名は,Aguilerella(Yoshimopsis) nagatoensis (Ohta)
この貝は翼形類ですので,翼が付属しているのがわかると思います。太田先生が最初に同定・記載されていますが,高知大の田代先生がこの属に改めています。
この汽水生二枚貝はウグイスガイ科に属し,現生種にはウグイスガイ,ツバメガイ,アコヤガイ,クロチョウガイなど真珠層をもっている種があり,この化石はウグイスガイによく似ています。貝殻の内側が真珠のように輝いていたのかもしれませんが,吉母地域は貫入岩の影響で化石の母岩が熱で変成して硬くなってしまっていますので,化石も変質してしまっているでしょう。
今回の化石標本は,サイズが少し小さめでしたが,どちらも長門の地名の付いた貝化石ということで山口にふさわしい化石種だと思い,県立山口博物館に寄贈させていただいた標本の1つです。
0 件のコメント:
コメントを投稿