下関市には極寒となるシベリア付近からヒドリガモが冬を越すために毎年群れをなして渡ってきます。この鴨は河口付近や潮の引いた干潟などで小~中規模の群れが観察されます。今回は,ヒドリガモについてその生活やアメリカヒドリとの雑種などの話題も織り交ぜて解説してみたいと思います。
干潟に集結したヒドリガモを主体とする群れ(11/26) |
ヒドリガモ(緋鳥鴨)
ヒドリガモ(Mareca penelope)は,英名でEurasian Wigeonといい,ユーラシア大陸の北緯52°以北のシベリアから越冬のために渡ってくるマレカ属のカモです。以前はリンネによる記載当時のマガモ属(Anas)に含まれていましたが,2009年に分子系統解析に基づいてイギリスのJ. F. Stepens(1824)によって創設されたMareca属に戻されたようです。種名の「penelope」は,ペネロペという女性が海に身を投げた際にカモに助けられたというギリシャ神話に由来します。Wigeonは,ヒドリガモ,アメリカヒドリ,ワキアカヒドリ,および19世紀後半に絶滅した“アムステルダムヒドリ”の総称です。日本ではヒドリガモとアメリカヒドリが確認されています。
ヒドリガモのオスは,繁殖地のロシアを思わせる姿をしていますが,日本に渡ってきてからそのオスらしい姿へ換羽します。次の写真のように,オスは10月末頃に渡ってきてしばらくの間エクリプスと呼ばれるメスに近い姿をしており,腹部,尾羽および翼などから部分的にオスらしい灰色の羽に生え換わっていきます。エクリプス(eclipse)は英語で光の消滅(日食・月食など)・衰退・失墜といった意味があり,鳥類では繁殖期が終わって地味な色の羽に生え換わった状態をいいます。
渡ってきたばかりの頃のヒドリガモのエクリプス(10/28) |
次の写真は,ヒドリガモの小さな群れが河口付近で少し小柄なコガモと混ざって羽を休めているところです。ヒドリガモとコガモはオスの姿が良く似ています。
ヒドリガモおよびコガモ(1月下旬) |
11月と比べると個体数は減ったのかと思うと,この群れは次の写真のような比較的大きな群れから離れて,河口の奥まで来ているようです。
河口沖の海面に浮かぶヒドリガモの群れ(2月下旬) |
ヒドリガモが北から戻ってきた?
2018年は3月4日以来,暑い夏日が続き川は閑散としていたのですが,4月3日にヒドリガモのオスが2羽ほど川に戻り4月7日には気温が10℃以下に下がるとヒドリガモがカルガモの群れと一緒にオス・メス合わせて11羽ほど見られました。その中にオカヨシガモ3羽とヨシガモ1羽が混群していましたので同じ群れだとわかりました。
ヒドリガモの群れが戻ってきた(4/15) |
5月上旬にはカモたちは繁殖地のシベリアへ帰還したようです。
河口を飛び立つヒドリガモの群れ |
ヒドリガモとアメリカヒドリとの雑種
次の写真はヒドリガモ(Mareca penelope)とアメリカヒドリ(Mareca americana)の雑種とみられる個体で頬の色がアメリカヒドリでは黒褐色なのに対して,この個体ではヒドリガモと同じ茶褐色を呈しています。
ヒドリガモとアメリカヒドリのハイブリッド個体か(2020年1月上旬) |
アメリカヒドリは,眼から後頭部にかけて緑色の領域があるのが特徴で,ヒドリガモと交雑するといわれていますので,ハイブリッドである可能性は高いでしょう。
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