2020/10/25

下関市で身近な柿や桜などの葉を摂食するイガイガの毒毛虫,ヒロヘリアオイラガ(Blue-striped nettle grubs in Yamaguchi, southwest Japan)

 

下関市では9月上旬~10月上旬,柿の葉にイラガが群がってついているのがよく見られます。柿の幹には穴の開いた少し気味の悪い堅いマユ状の物体が群がって付着しているのを見たことがある方も多いと思いますが,これはヒロヘリアオイラガの羽化後のマユです。幼虫の毒棘は,この頃ちょうど栗の収穫時期でイガイガで刺さると非常に痛いという点で共通していますね

今回は,注意しないと痛い思いをするヒロヘリアオイラガについて幼虫,マユ(サナギ),成虫の写真を交えて解説してみたいと思います。

 

写真_昆虫
柿の葉の葉縁に群れるヒロヘリアオイラガ(9/16)

 



ヒロヘリアオイラガ(広縁青毒棘蛾)

 

イラガには,いくつかの属がありますが,ヒロヘリアオイラガはアオイラガ属で,1920年頃に中国南部などから移入した外来種とされています。

ヒロヘリアオイラガ(Parasa lepida)の英名は,blue-striped nettle grub。直訳で,青い縞のあるイラクサ(のような棘[トゲ]のある)幼虫で,幼虫を指す名前になっています。アオイラガの和名は,成虫の前翅の色が薄緑色(日本では緑系統の色も青ということもある)をしているということからではなく,幼虫の背線の色からきているようです。「nettleには,イラクサ属の植物を指す名詞のほか,イライラさせ焦らせ煩わせるといった他動詞の意味があり,なんとイラガの発生から毒棘が刺さって処置する時の様子まで想起させます。

まず動画をご視聴ください。

ヒロヘリアオイラガの動画



写真_昆虫
背筋に青い縞のあるヒロヘリアオイラガが一列に並ぶ(9/16)

 

ヒロヘリアオイラガの幼虫は,まだ若齢の時に葉に群がっているのがよく見られますが,日が経つと次第に分散していって,単独で生活するようになります。


写真_昆虫
単独でみられる大きくなったヒロヘリアオイラガの幼虫(9/25)

 
幼虫の頭部は,毒棘によって隠れていますので,葉の上で休んでいたり,上からみると見えません。下の写真では摂食中で頭部を見ることができます。

写真_昆虫
柿の葉を摂食中のヒロヘリアオイラガの頭部(9/25) 


ヒロヘリアオイラガの幼虫には,下の写真のように胸部環節の背面側に朱色の棘(とげ)がありますので,この点でアオイラガと識別できます。

 

写真_昆虫
ヒロヘリアオイラガの側面(9/25)頭部のある右側で朱色の棘が見える。


イラガの幼虫は足が無い?

イラガの幼虫は葉や枝などを移動するのに,胸部環節に3対の歩脚があるものの腹部と尾部の疣足(いぼあし)は退化しており,歩脚はあまり使わず,胸部よりも下の体節を使って枝につかまったり葉に吸盤状に吸い付きながらナメクジのように移動しています。そのため土の地面や砂礫でザラザラの土間のような場所では歩くことが困難で,助けてあげなければ何日もそのままじっとしていることもあります。

ガラス越しに撮影したヒロヘリアオイラガの裏側(10/06)




ヒロヘリアオイラガの成虫

ヒロヘリアオイラガの「ヒロヘリ」は,成虫の薄緑色の前翅の外縁部にある褐色領域がアオイラガよりもやや広いことに由来しています。

ヒロヘリアオイラガの羽化直後の成虫(8/15)

堅い灰色をしたマユから蓋を開けるように抜け出してくるようです。写真に蓋(フタ)も写っていますね。茶色の物体がサナギの抜け殻で,成虫がマユの中からサナギの殻を引きずるように出てきているのがわかります。


気味の悪い物体の正体
羽化して時間が経ったマユの状態を撮ったのが次の写真になります。植木鉢などにもよく群がって付着していますので,知らずに手で鉢を持つと感触が気持ち悪いですね。

木の根元に群がるヒロヘリアオイラガのマユ


下関のヒロヘリアオイラガの越冬個体の場合は,マユの中で終齢幼虫のまま冬を過ごし,春に蛹化し5~6月上旬になると羽化して成虫になります。しかしその羽化した成虫が繁殖させた幼虫を見たことがまだありません。野鳥の繁殖時期だからでしょうか成虫や幼虫が捕食されやすいのかもしれません。

7月は成虫・幼虫ともに見たことがないですが,8月中旬~10月上旬に羽化することが多いように思えます。
次の写真は8月羽化の個体です。


ヒロヘリアオイラガが翅を展開した姿(8/15)


毒棘が皮膚に触れたり,刺さるとどうなる?

毒棘(どくきょく)によっておおわれていて,触れると毒液が注入され神経がピリピリとした感覚があり,痛みも伴います。蜂に刺された時ほどの重い痛みはないですが,痛いことは確かです。

 

ヒロヘリアオイラガの幼虫の毒棘に刺された炎症部(9/04)


刺されたあと20分以内くらいにすぐに多量の流水で洗い流せば痛みも引き,症状がひどくなったことはありません。洗い流したあと1日も経てば炎症も消えてなくなっていました。なかなか良心的な昆虫です。近付いたほうにも不注意の責任がありますので,1日くらいは我慢できると思いますが,アレルギーのある方は気をつけるべきですね。自然界には様々な危険が潜んでいます。

イラガに比べて,同じ頃にツバキの木などに発生するチャドクガは数週間以上炎症が続き,次第にケロイド状に悪化し痒みもひどく傷跡が残りやすいです。


したたかで儚いヒロヘリアオイラガの一生

幼虫は命を守るために毒棘を発達させ,外敵を寄せ付けないような姿をしていて,時に触れたものに対して電気を走らせたようなショックを与えますが,柿の葉を食べられるくらいでそれほど大きな害はありません。


ヒロヘリアオイラガの成虫の退化した口(5/16)

ヒロヘリアオイラガには,口吻がなく摂食行動が見られません。そのため成虫の寿命も5日くらいと短いです。

外来種とはいっても,昆虫は時には霊媒ともなる神聖な生き物といわれていますので,報復の大義名分のもとに力ずくでねじ伏せるような行為や自然環境をむやみに壊すようなことはせず畏敬の念をもって接するようにしたいですね。どれほど言い訳を重ねたとしても人間の行いには恐るべきものが多くそれが常識だと思い込まされているということに気付いてほしいです。昆虫との接し方や心の持ちようによっては不思議体験をしたり,昆虫と仲良くなれるといったこともあります。





























































































































































































































































 


























































































































































































































































 

 

 

 

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