2019/09/08

ホーホケキョと鳴くメジロと混同される小鳥の生態およびその魅力;ウグイスとは?下関市南部山地

 

山口県では,ホーホケキョというきれいなさえずりが聞かれるのは春から夏の7月までの間です。夏の33℃以上の猛暑がやってくると声が聞こえなくなりますがなぜでしょうか。今回は,そういった疑問をひもとき1年間のウグイスの生態やその魅力について解説してみたいと思います。

 

写真_野鳥
尾羽のないウグイス(2月中旬)



ウグイス(鶯)


ウグイスHorornis diphone cantans)は,英語でブッシュ・ワーブラー(Bush Warbler)と言います。灌木(かんぼく)で声を震わせるように美しくさえずる鳥,と訳せます。灌木は,樹高3m以下の低木を指すので,日本のウグイス(Japanese Bush Warbler)に関しては誤りです。

というのも,冬は樹高1mくらいの低木に隠れてチャッチャッと地味な地鳴きをしていて,春と夏は10m以上もある樹々の間を飛び回ってホーホケキョとさえずっています。

ウグイスは今でこそ‘鳥獣保護法’により捕獲および飼育ができないので保護された状態ですが,その美しいさえずりと低いところにいるという生態のために捕獲する人が絶えない歴史があったようです。

ヒトを警戒して姿をあまり見せないウグイスの臆病さは,そこにもあるのかもしれませんが,メジロもウグイスと体色が多少似ていて,両者を混同している方がいるとよくいわれるほどで,昔は飼育の対象でしたが,自然の中でも意外にヒト慣れする鳥です。

 

 

写真_野鳥
柑橘の木にとまっているウグイスのウグイス色の翼(2月中旬)


ウグイスもメジロもウグイス色をしていることで,両者混同されるということをよく見聞きします。しかし,メジロのほうが色が鮮やかで目の周囲が白く縁どられており識別はごく簡単ですので,それは恐らく小鳥の色という認識しかない,つまり,メジロとウグイスを図鑑で見たことがないという方などがイメージのみでいわれていることだとわかります。

11月5日のこと。この時期になると林縁の山にウグイスが戻ってきて例年のように地鳴きをはじめます。ウグイスはとても警戒心が強く臆病なのか,竹やぶや低木の中などの茂みに隠れて,チャッチャッ”, “チャッチャッ”と地鳴きを繰り返します。近づくと茂みの中からたまに片目をのぞかせてこちらをチラチラと見ています。



ウグイスの落ち着きのない生態とその理由は?

ウグイスは,チャッチャッという声に合わせて尾羽をピーンと上に向け,ときどき尾羽も扇子のように広げつつ体を左右に45°程度に瞬くスピードで回転させながら茂みの中を俊敏に飛び回っています。

 

 

写真_野鳥
落ち着きのないウグイス(3月下旬)


外敵から身を守ったりするために,辺りを見回しているというのはわかるのですが,逆に静かにしていたほうが見つからずにすむのに,なぜそこまで落ち着きのない動きをしているのでしょうか。

他の囀りをするスズメ亜目(すずめあもく)に属する鳥はどうなのでしょう。身近なスズメシジュウカラが電線などに1羽でとまっている時は,左右に体を落ち着きなく回転させますが,それでも,ウグイスほどに切れはありません。チャッチャッという地鳴きのしかたや,ものすごいスピードで小回りのきくところは,ミソサザイとそっくりですがどうしてなのでしょうか。

ウグイスは単独行動の多い鳥で,孤独な分,大げさな動きをして,あちこちに飛び移って茂みを揺らし,群れでいるように見せかけて外敵の眼をくらましているのでしょうか。実は,それだけ単純な理由からではないと考えられます。

スズメ亜目の小鳥は,色々な科に分かれていますが,太古から餌場の使い分けをすることによって,それぞれの生態的地位を確立してきたと考えられています。生態的地位は,ニッチともいいます。すべての鳥が,好きな場所でエサを採餌していたのでは,競争が激化してしまいますので,争いを回避するために,鳥の種類によってエサの種類や餌場の位置関係がしだいに決まってきたのでしょう。秋,冬になると,食糧が少なくなるとともに,越冬目的で渡ってくる冬鳥も加わり,山は過密状態です。こうなると棲み分けが必要になってきますね。

ウグイスミソサザイは,分類上所属する科が違いますが,その生息場所や行動が良く似ていて,冬場の地鳴きをしている時期は,低木の茂みやヤブの中でよく鳴いています。ヒトと同じくらいの高さの範囲の低木の細い枝の間を,葉枝を揺らしながら飛び回っていると,余計に落ち着きのないように見えます。時には,地面に降りてきて鳴いています。



写真_野鳥
地上で地鳴きするウグイス(2月中旬)


写真のウグイスは,尾羽がありませんが,繁殖の時期が終わると羽が完全に生え換わりますので,風切羽はすでに生え換わって,春には立派な尾羽が生えてくると思います。

 

写真_野鳥
ウグイスの後ろ姿(2月中旬)


以上のことを考えると,地上の動物に襲われるリスクも高くなりますので,それだけ警戒を強めなければいけません。

つまり,落ち着きの無さは生態的な違いを反映しているということです。

 

 

ウグイスは,さえずりの鳴きまねをすると応戦してくる?

ウグイスの鳴きまねをすると,ウグイスが音で探しながら近くまで飛んでくることがあります。日常的に縄張りの偵察も兼ねて,身内の鳥とコミュニケーションをしていますので,仲間と勘違いしているのだと思います。口笛では,鳥のさえずりほど遠くに届く大きな音は出せないですので,ウグイスは非常に耳が良いです。音程は低いほうが,遠くまで音が届きやすいという性質がありますので,

ホーー,ホーー,ホー,ホー,ホー,ホ,ホ,ホケキョ,

とホの部分だけ低く鳴いて,こちらが鳴きまねをすることがわかっているので同じような低い音程でこちらに鳴きまねをさせながら段々と近付いてきます。ウグイスが近くまでくると,高い木にとまって大きく威勢よく得意げにさえずりはじめます。鳴きまねをしているうちに,ウグイス側は音程を次第に高くしてきます。音程は5段階はあります。最初は,競い鳴きのような感じに思っていました。

 

時々,ホーホケキョのさえずりの後に谷渡りという警戒声を発することがあります。よく観察していると上空からカラスがウグイスのほうに近づいていくと,

キキキキキキキキキキキキキキ,キ・チョ・ケ,キ・チョ・ケ,キ・チョ・ケ,キ・チョ・ケ,キ・チョ・ケ,キ・チョ・・・

という風に驚いたような甲高い声を上げています。カラスのほうも面白がって3回ほど樹上を往復しウグイスに警戒声を上げさせる様子もみられたことがあります。カラスは興味を感じるとトンボ返りのように数回上空を往復することがあり,山中で縦穴の中での作業中に上空を同じ道筋で4往復され,下の様子を片目で観察されるという不思議体験をしました。


そのウグイスも最初はヒトがまさか鳴いているとは思わなかったのでしょうか。ウグイスのほうもそうだと悟ると警戒と相まって驚き笑いの現れとして地(じ)が出てしまったのか谷渡りの鳴き声に,チャッチャッチャッという地鳴きが入り込むという鳴き方をしたことがあります。それからというもの山へ行くとたいてい同じ辺りの樹上に待機していて威勢よくさえずって返答を求めてくるようになりました。

ウグイスのほうも同じ鳴き方をするので仲間だと認識したのか,口笛による鳴きまねがうまくいかなかった時に同じ音程を2回まで繰り返すようになりました。これは恐らく鳴きまねが下手すぎて若鳥にさえずりを指導しているような感覚なのでしょう。

というのも,ここよりも東側に何キロ平米も広く縄張りをもつウグイスは同じホーホケキョでも違った鳴き方をします。ですので,縄張りを守るのに利用できるヒトだと認識されていた可能性もあります。それからしばらくたってからのこと,ウグイスもあまり姿を見せないようになりました。というのも,子育てが一段落して1ヶ月ほど経過したくらいの時期になります。

7月下旬,猛暑日が続くようになって声も聞こえなくなりました。おそらく,暑さで標高の高い山の渓谷などで避暑をして過ごしていたり,生理的にさえずり声を出しにくくなるのかもしれません。というのも,ウグイス長日条件で繁殖行動をするといわれ,夏至(6月下旬)を過ぎた短日条件下では日が短くなっていきますので,次第に繁殖行動であるさえずりをしにくくなるのでしょう。それでも8月,曇って雨模様など少し涼しくなると林縁部まできているようで,1度だけ聞こえるか聞こえないかの出せない声を振り絞り近くの大木の上から囀ったあとに驚き笑いをしてくれたことがあります。

9月上旬には山で1度だけ近くの低い箇所から地鳴きが聞こえました。この時期になると完全に囀れなくなっているということです。恐らく,姿を見て知らせてくれたのでしょう。

また,ウグイスに会えるときは,秋も暮れて11月の頃になります。



写真_野鳥
こちらを気にするウグイス


 ウグイスは地球上にいつ頃からいた?

ウグイスの化石は残念ながら見つかっていませんが,スズメ亜目の鳥は今から約5000万年前の古第三紀の前期始新世からいたと考えられています。鳥類化石の同定は難しいようで報告は第四紀以降の場合が多いです。









































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

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