常緑広葉樹のツブラジイは,スダジイとともに生で食用にできるいわゆるシイの実のなる木で,山口県でも縄文時代から食べられていました。今回は,ツブラジイについて考古学や地質の話題とともに解説します。
ツブラジイの実(堅果) |
ツブラジイ(円椎)
ツブラジイ(Castanopsis cuspidata)は,英名でJapanese tsuburajii。ブナ科シイ属の常緑広葉樹で樹高が20~25mにもなります。
樹高20mを超えるツブラジイの木 |
葉は,全縁で鋸歯がないか上半部に鈍い鋸歯がまばらに認められ,葉裏は灰緑色で白っぽく見えます。
下から見たツブラジイの葉 |
次の写真では,堅果が熟して殻斗が開き落果寸前のものです。
ツブラジイの実がなっている様子 |
ツブラジイの実 |
次の写真は樹高20mを超える径50㎝ほどの巨木の樹皮です。ツブラジイの樹皮は通常は平滑ですが,巨木になるとスダジイほどではないですが多少の裂けめが入るようです。
ツブラジイの樹皮 |
山口県ではシイの実はいつ頃から食べられている?
山口県では,縄文時代後期後葉~晩期前半の岩田第四類土器(岩田式土器)で知られる平生町の岩田遺跡からドングリ類の貯蔵穴が33か所ほど見つかっており,その中からツブラジイ(コジイ)のほか,マテバシイ,ウバメガシ,シラカシ,イチイガシ,アカガシの実などが検出されています。扇状地末端の湧水箇所に深さ1m前後の大きな穴を掘り貯蔵していたそうです。カシ類などは生ではタンニンやサポニンが含有され苦みが強く食用にできないためアク抜きをするためだという見方もありますが,アズキやクリと同様,ドングリ類はゾウムシやガといった昆虫が実がなっている時期から多くの実に産卵している(よく観察すると小さい穴があいています)ため,放っておくと中で孵化した幼虫にボロボロにされ長期保存ができません。生食可能なツブラジイやマテバシイが一緒に貯蔵されているということは常時きれいな水にさらすことで虫による食害防止を兼ねて生の状態で保存可能にしていたのでしょう。ドングリを食べる際には,粉砕して土器を用いて煮沸したり水にさらしていたと考えられます。
下関市菊川町の下七見遺跡の下層から岩宿時代の石核石器が出土していますので,生で食べられるツブラジイやスダジイ,マテバシイなどは縄文時代(約1万6500年~3000年前)とはいわずそれ以前から食べられていたことでしょう。岩宿時代というのは,日本に人類が暮らし始めてから縄文時代がはじまるまでの時代になります。
シイ属の化石はいつ頃から出る?
Castanopsis(シイ属)は,今から約4780~3800万年前の中期始新世の地層から産出しているものが世界的には最古級のものです。山口県の化石は世界でも最古級といえるもので,宇部層群沖ノ山層の五段層(約4100万年前)からツブラジイ(Castanopsis cuspidata)に比較されるCastanopsis tanaiiが報告されています。アメリカのオレゴン州やカリフォルニア州の同時代の地層からもCastanopsisの化石が産出しています。下関市の今から約3300万年前の前期漸新世の幡生層の武久礫岩部層最下部からCastanopsis miotibetanaが報告されています。
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