7月も中旬になるとセミの声が響きわたり真夏日が多くなり,黒いさや羽に白いまだら模様のあるカミキリムシの交尾が観察されます。今回は,カンキツ類の木によく見られるゴマダラカミキリについて,その卵から幼虫,成虫の写真を上げながら生態について解説したいと思います。
ヌルデの木にとまるゴマダラカミキリ(9月上旬) |
ゴマダラカミキリ(胡麻斑髪切)
ゴマダラカミキリは,カミキリムシ科フトカミキリ亜科の甲虫で,学名はAnoplophora chinensis (Forster, 1771)。Anoplophora malasiaca (Thomson, 1865)は下位同物異名(junior synonym)とされています。「Anoplo-」は,an(~のない)と古代ギリシャ語のoplo(大きなシールド)で「大きな盾状部のない」,「phora」は,ギリシャ語「phorum」の女性形名詞で「~の保持者」を意味し,例えばカブトムシのような大きな角がないものを意味するものと考えられます。
英名は,Citrus long-horned beetleで,カンキツ類の長い触角のある甲虫という意味です。かつてWhite-spotted Longicorn Beetle(白斑のある触角の長い甲虫)とされていたものに相当します。日本や中国,東南アジアに分布し,種名のchinensisは,china(中国),-ensis(起源や生息地)を意味します。
ゴマダラカミキリの成虫は6月中旬には寄主植物から脱出してきます。Citrus long-horned beetleといわれるように柑橘樹(ミカン科)に入ることが多いようです。
木の根元にできたゴマダラカミキリの脱出孔(6月中旬) |
ゴマダラカミキリによってトンネル状に蝕まれたカンキツ類の根元 |
次の写真は交尾の様子で,メス個体の上にのってつかまっているのがオスです。
カンキツ類の葉枝にとまって交尾をするゴマダラカミキリ(7月中旬) |
オスのほうが少し小柄で腹部も小さ目です。メスは交尾の後,木の根元付近の樹皮に大顎で噛み傷をつけて産卵し,そこから樹液や脂(やに)が出てきていることがよくあります。
カンキツ類の根元に出現した樹皮の傷と樹液(8月下旬) |
傷跡を探ってみると産み付けられた卵がみつかりました。ゴマダラカミキリは一生のうちに200個もの卵を産卵することができるといわれています。
ゴマダラカミキリの卵(8月下旬) |
次の写真は孵化したゴマダラカミキリの幼虫です。俗にテッポウムシとも呼ばれます。
ゴマダラカミキリの幼虫(9月上旬) |
幼虫は,日本においては1年から2年で蛹化し成虫として宿主植物から脱出してきます。成虫は普段から何を食べているかというと,次の写真のようなものになります。
ゴマダラカミキリの成虫によって採餌されたカンキツ類の葉枝(7月末) |
ゴマダラカミキリは,大顎で樹皮や時には葉をかじって食べて生活していて,個体の寿命は約1ヶ月ほどです。
カミキリムシはいつ頃から地球上にいる?
カミキリムシ科の甲虫は,確かな記録では今から1億1000万年前の前期白亜紀のAlbian期初期の石灰岩に挟まれる浅海成の泥岩・凝灰岩層に最古の化石が見つかっています。この化石は東南アジアのミャンマー北部,カチン州のフーコン渓谷から出るビルマ琥珀(バーマイト)に含まれています。カミキリムシの発見されたカムティ(Hkamti)南西部のものはかなり古く,110 Maのジルコン年代が得られており,カムティ・アンバーとも呼ばれます。このほかバーマイトと呼ばれるものには9900万年前の後期白亜紀Cenomanian期と時代が異なりますが,古代鳥の趾(あし)や世界最古の古代カエル,トカゲ,クモ,多種にわたる昆虫の化石など様々な生物が発見されています。前期白亜紀は被子植物の存在が顕在化した時代(Barremian期以降)ですが,Albian期はその末期にあたりかなりカミキリムシの食樹となる広葉樹が顕著になってきた頃になります。カミキリムシと広葉樹は切り離せない関係にあることがわかります。
前期白亜紀のAlbian期は,山口県の地層でいうと関門層群の上半部を構成する下関亜層群の堆積した時代になります。下関市の下関亜層群から最近,恐竜の卵の化石が記載されたことで話題になったばかりです。
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