2019/02/24

山口県下関市へ飛来するクロツラヘラサギ,ヘラ状のクチバシで行う独特の採餌方法【動画あり】(Black-faced Spoonbills of southwest Japan)

 

2017年の晩秋にヒドリガモの群れが多数,海岸の浅瀬に飛来していた場所で1羽のクロツラヘラサギと初遭遇しました。その後,2019年2月に群れを初確認してすでに2週間ほど経過します。遠くからではシラサギの群れと勘違いすることもあり,シラサギも驚くほどです。

今回は,ヘラサギ独特の採餌風景を写真と動画で紹介し,ヘラサギ属は見た目でシラサギよりも少し古い系統だということは推測できますが,クロツラヘラサギがどのような鳥類と近縁なのかを確認する目的で系統解析を行いましたので,地質・古生物学的な観点から解説してみたいと思います。


浜辺の河口付近の浅瀬で最初にみかけたクロツラヘラサギで,手前の2羽はヒドリガモのつがい(11/19)



クロツラヘラサギ(黒面箆鷺)

この辺りは,チュウサギなどの白鷺の群れをよく見かけますので,トキ科とサギ科は良く似ていて,体色が白い場合,遠くからみると,チュウサギの群れと勘違いして見過ごすことも多いです。

というのも,下の写真のように首を縮めてクチバシを羽に隠し1本足で休んでいることが多いため,ヘラ状のクチバシを見ることができません。


防波堤に集まったクロツラヘラサギの群れ(2/17)


ヘラサギの名の由来

クロツラヘラサギよりもひと回り大きいヘラサギは,スウェーデンの生物学者,リンネが1758年に学名:Platalea leucorodia(プラタリィア・リューコロディア)をつけているので,ヘラサギの和名は,「白くて,棍棒の形をした」という意味に訳せる種名,あるいは,White spoonbill(白いスプーン状のクチバシ)という英語名に順じた呼び方なのかもしれません。

属名のPlatalea(ヘラサギ属)も,「広い」という意味のギリシャ語に接尾辞がついた語で,恐らくクチバシの形態からついた属名ではないかと思います。

ということで,ヘラサギの名の由来はわかりやすいです。

クロツラヘラサギは,Platalea minor(プラタリィア・マイナー)で,種名は小さいマイナー)という意味で,クロツラヘラサギは小型だということですね。

 


クロツラヘラサギは冬鳥

主としてロシア極東地域や中国の黄海東側の沿岸で繁殖をして,冬期に台湾,中国南部~東南アジア東岸部などに渡りをするということで,一部の小さい群れがマガモなどの群れの渡りに便乗して日本列島に渡ってきているのかもしれません。とくに九州の各地に多いようで,近年,山口県でも暖冬で増えてきているのかもしれません。

ですので,見られるのは秋の10月末頃から冬の間だけのようです。たまに,1羽くらいは,しばらく居残っていることもありますね。



ヘラサギの奇異な採餌方法

 

口の中へ獲物を放り込むクロツラヘラサギ(2/3)

クロツラヘラサギは,頭まで水に潜って,首を左右に旋回を繰り返し,水中でクチバシ細かく振るわせながら砂泥底を探ってクチバシに当たったカニなどの甲殻類や小魚を挟み込んで採っているようです。クチバシがヘラ形をしているので,のような獲り方だと効率的な採餌(さいじ)ができそうです。写真を撮影した時は,曇っていて暗く川の水が濁っているようでしたが,そのような場所を狙ってここを訪れたのかもしれません。

採餌中に体格の似たチュウサギが颯爽と歩いてきて,様子を見にきたのかわかりませんが,クロツラヘラサギが全く気が付かなかったためか動じなかったためか,チュウサギのほうは空振りしたという雰囲気でした。

下の写真がそのときものです。

 

チュウサギの接近に動じなかった採餌中のクロツラヘラサギ(2/3)


一瞬足を止めて,何っ?という様子でした。格好が似ているので仲間が変なことをしていると思って近付いてきたのでしょうか。

ヘラサギ属は,首が比較的太い上,足も太めガッチリしていて,しかも水中に首を突っ込んで採餌をするレトロな雰囲気をもつ鳥類です。人類は骨格が頑丈なガッチリタイプは原始的な形質といえます。

 

肢が太く頑丈なクロツラヘラサギ(2/3)


サギの仲間は,このように水面下に首を沈めたりせず,水面上から獲物をねらって,クチバシで瞬時に獲物をしとめているシーンをよく見かけます。チュウサギもクロツラヘラサギの行動を見て異様に思ったのかもしれません。それに滅多に見ない鳥ですのでそうだと思います。山口県ではそれだけ珍しかったのです。



 ヘラサギ属と他の野鳥との系統関係

 ヘラサギ属は,体格をみるとサギの仲間よりも原始的で非常に興味深い鳥です。

今回,ヘラサギ属が他のどの鳥に近縁なのかを明らかにすることを目的として,ミトコンドリアDNAデータを用いて系統解析を行いました。

 結果は,以下の図の通りです。

 

トキ科を主とした系統樹


トキ科最古の化石が前期始新世の初頭(約5390万年前)とされていますので,これをもとに各枝の分岐年代を出すと,トキ科とサギ科は後期白亜紀のSantonian期(約8400万年前)に分化し,ヘラサギ属はクロトキ属と共通の祖先から中期始新世頃(約3950万年前)に分かれ,現世に至るという結論が出ました。

中期始新世といえば,前期白亜紀の下関亜層群から断続的につづく汎世界的な火山活動などの影響で地球が非常に寒冷化し海水準がまだ低いままの時期です。山口県では,宇部層群の石炭層が陸域から周防灘の海底にまで広がる広大な湿地や沼沢地などで堆積し,山陰側では田万川火山岩が活動していた時期で,その時からヘラサギの仲間はいたことになります。

トキ科の中でもヘラサギ属よりも,日本の象徴でもあるトキNipponia nippon)のほうが原初的であることがわかりました。つまり,トキのほうが中生代の恐竜に比較的近いということですね。

最近は温暖化などの影響か,野生動物の行動が異常になってきているのを感じますので,とにかく自然を大切にしましょう。針のついた糸をくわえている渡り鳥を見たり,SNSによくアップされていたりします。岸壁で魚釣りをする方は,釣り糸・釣り針などの後片付けを適切に行うべきですね。

最後にクロツラヘラサギの動画を。


クロツラヘラサギの動画























































































































 


 

0 件のコメント: