仲秋の少し肌寒くなった頃に夕方薄暗くなると草むらからティッティキティという面白い鳴き声が頻繁に聞こえてきます。この虫の少し異色の声を聞くとその正体を知りたくなる方も結構おられるでしょう。しかし,アオマツムシと違い見つけることが非常に難しいです。ここでは,『むしのこえ』という歌にも出てくるこのマツムシを写真で紹介したいと思います。
マツムシ(8月下旬) |
マツムシ(松虫)
マツムシはバッタ目キリギリス亜目コオロギ科マツムシ亜科マツムシ属の昆虫で,いわゆるコオロギといってよい分類上位置に属します。
学名は,Xenogryllus marmoratus (Haan, 1842),(ゼノグリラス・マーモレィタス)
英名は,Pine cricket,またはMatsumushi。
属名のXenogryllusは,ギリシャ語に語源をもつ「Xeno-(異型の)」と「gryll(コオロギ)」に「-us」をつけてラテン語男性名詞化したもので,従来マツムシ科に収容され,コオロギとは区別して扱われていたことがわかります。
種名のmarmoratusは,「大理石(墨流し)模様を呈し,不規則に縞ないし筋の入っている」という意味のラテン語男性形容詞になります。
眼も縞模様になっており,最初に見たときには違和感がありました。
オスのマツムシの頭部,胸部にある不規則な縞模様ないしストライプ |
メスのマツムシの頭部にみられるストライプ |
メスのマツムシには,オスにもある二本の尾毛のほかに,長い産卵管があり,イネ科の草に産卵するようです。
メスのマツムシ(8月下旬) |
音を奏でることができるのは,当然,複雑な構造の翅を有するオスのマツムシのほうで,音を出す際には,スズムシのようなかっこうで翅を立てて左右の翅をこすり合わせて鳴きます。姿は大型のスズムシといった感じになります。
オスのマツムシ(9月上旬) |
実際には「ティッティキティ」に近い音で鳴きますが,「あれ マツムシが鳴いているー チンチロ チンチロ チンチロリン」という歌詞が浮かんできます。
コオロギの仲間はいつごろ地球上に現れた?
コオロギ科の最古級の昆虫は,今から1億3290万年前から1億2940万年前の前期白亜紀のオーテリビアン期のものでイギリス南東部サリー州にあるクロック ハウス ブリックワークスというサイトから11の目に属する数1000の昆虫化石とともに見つかっています。発見された地層は,ウィールデン層群(タイプウィールデン)のLower Weald Clay層で,温帯から亜熱帯の気候下で陸上漂砂,淡水湖沼や,ラグーンなどの汽水域に棲息した植物や昆虫(セミ,トンボ,シロアリ,絶滅分類群など),陸上爬虫類,水生動植物(淡水魚類・爬虫類など)が見つかっています。
山口県でオーテリビアン期の地層は,下関市南部に分布する豊西層群吉母層で,その上部層がその時期にあたります。ちょうどこの頃は,豊西層群とこれを不整合に覆う関門層群の層序間隙をつくった地殻変動がはじまった時期で,吉母層下部層の黒色泥岩や砂岩を堆積した頃とは違い,砂岩や礫岩など粗粒の堆積物が堆積しています。
この変動というのは,かつて南中国地塊にくっついていた頃の日本を形造る基盤岩に対して海洋プレートが海溝とほぼ平行に北へ向かって高速移動したために日本弧の基盤となる付加体群が構造線で分割されて左横ずれを起こし,南側の地体群が複雑に変位しながら北上をはじめたことに起因しています。構造線の北側の断層運動により圧縮された地帯で何が起こるか想像してみて下さい。
何が起こったのかは次の過去ログで解説しています。
山口県でカベチョロと呼ばれる爬虫類のニホンカナヘビ;交尾,卵,孵化の観察 / カナヘビ科:道原層の時代に出現!?
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